タオの生き方

 
          秘密の製法 

デリック・リン
 

 

中国の人里はなれた村の夕暮れ時でした。ひとりの旅人がやってきて道を尋ねるために川のそばの家に寄りました。その家の男は、時間も遅いので彼の家に泊まっていくよう勧めました。旅人はその男が伝統的なもてなしを実践していることに気づき、有難くその寛大な申し出を受け入れました。

夕食後、旅人は会話とお茶のため招待主に同席しました。「私の好奇心をお許しください。」と旅人は言いました。「私が道を尋ねたとき、あなたは一日の仕事を終え、道具を片付けるところでした。もしよろしければ、あなたの職業を教えていただけませんか。」

「あぁ、もちろんいいですよ。」と主人は答えました。「私の家族は布の漂白を商売にしております。布地を特別な漂白液剤に浸してから川に入れ、川の流れで漂白剤を洗い落とすのです。古くなった衣類やベッドシーツが新品のように綺麗になりますよ。」

「それは興味深いですね。」と旅人は言いました。「ただちょっと気になるのですが、今は真冬で気候は寒く乾燥しています。川の中を毎日歩くことで皮膚が割れ、痛いひび割れができることは気にならないのですか。それによって仕事ができなくはなりませんか。」

漂白屋は説明しました。「私たちは幸運なことにこの芳香軟膏が守ってくれるんです。冬の間はこの軟膏を塗っています。これは大変優れたもので、皮膚が乾燥し過ぎるのを防いでくれるのです。一年中働けるようにしれくれています。」

旅人は大変感心しました。「私は今までにそんなに優れたものがあると知りませんでした!この芳香軟膏をどうやって手に入れられたのですか。」

「あぁ、これは代々引き継いできた秘密の製法です。誰も持ってはいません。これは私たちの商売を競争相手よりも優位にしてくれるのです。」

旅人はしばらく思いにふけり、こう言いました。「あなたに提案があります。私はこの秘密の製法に大変興味があります。あなたからこれを100金貨で買いたいのです。」

漂白屋はこの申し出に驚きました。そのようなお金を貯めるには、彼には何十年もかかるのです。彼は家族と相談する時間をもらい、そして旅人に条件を付けました。「もしあなたがこの軟膏を漂白業界の誰にも渡したり売ったりしないのであれば、この製法を売りましょう。」 

旅人はその趣旨を盛り込んだ厳粛な誓約書を作成し、取引が行われました。儀式とともにお金の所有者が変わり、漂白屋は秘密の製法を持ち出してきて注意深く写しました。

次の日旅人はまた旅をはじめ、漂白屋は通常の生活に戻りました。彼はお金を見て最良の使い道を見つけようと思いました。

旅人はウー王国の宮殿へ行き、国王との拝謁を求めました。王室で彼は国王に秘密の製法を贈り、その効用を説明しました。

ウー王は理解できずに旅人に尋ねました。「そなたの言うようにこの軟膏が効くことに疑いはないが、我々に一体どんな利益をもたらすというのだ?」

「殿下、隣国ユェ国で戦争をしていらっしゃるというのはまことでしょうか。」

「そのとおりだ。ユェ国は敵だ。いつかユェ国を征服するぞ!」

「殿下、その日はお考えの日よりも近いかもしれません。どうして今彼らを攻撃しないのかを教えていただけませんでしょうか。」

「冬の間は誰も攻撃などしない。我々の国は川によって分けられておる。いかなる攻撃もその川を越えねばならんのだ。この気候では兵士達は凍傷にかかり、皮膚が裂け、おぉ。」

「そうです、殿下。今が彼らを攻撃する一年で一番のときなのです。」

ウー王は直ちに秘密の製法に基づいた軟膏の大量生産を命令しました。ほんの2、3週間で準備は調いました。そして王は初の冬の攻撃を仕掛けたのです。ユェ王はこんなことを全く予想していなかったので、ウー王の気がふれたのだと思いました。

ユェ王国の兵士達は反撃をしはじめました。ふたつの軍隊は川を境に向き合い、すさまじい戦闘を繰り広げました。軟膏は期待通りに効用を発揮し、ウー王国の兵士達を守りました。けれどもユェ王国の兵士達にはこの保護はなく気候に完全にさらされていました。ほんの2、3日の交戦の後、ユェ王国の兵士達には武器を持つこともできないほどの痛々しいひび割れができました。

その地域の人々は驚きました。記憶する限りでは、ウーとユェは常に互角で、どちらも1インチも侵略することはできなかったのです。何故かウー王は完全にユェ王国の軍隊を壊滅させる方法を見つけたのです。膠着状態を終わらせ、ふたつの領域を彼の統治のもとに統合したのです。

勝利の極めて重要な役割を果たした旅人に感謝して、ウー王は旅人に大きな屋敷を与え、彼を公卿としました。旅人は王の特権生活に落ち着き、彼をそこまでにした道を思い起こしました。それは秘密の製法からはじまったのです。それは100金貨に過ぎません。これは最良の使い道だったに違いありません。

荘子によるとこの物語においては、芳香軟膏はタオを示しています。芳香軟膏が世代から世代へと引き継がれたように、タオの教えもそのように引き継がれました。今日多くの人々はその簡素さ、優雅さ、有効性にもかかわらず、これらの教えに未だ気づくことはありません。したがって、タオの生粋の伝承は現代社会においてよく守られ秘密のままなのです。

軟膏は漂白のためだけに使われるのではなく、強力な敵を打ち負かすためにも使うことができます。けれども、どのようにそれを使おうとも、軟膏は同じであり続け、その製法は変化しないのです。タオも同様です。複数の使い方があり、それをどのように使おうとも、タオは不変であり続けます。違いをつくる決定的要素はタオ自身ではありません。それはあなたです。

ある人々はタオを、哲学的道楽または学術研究とみなします。そのようにタオに近づくことは、軟膏を布の漂白のために使うのと同様です。それに間違いはありませんが、荘子は目に見える以上の軟膏の使い方を明示しています。同様に、今すぐ明確にはならないかもしれないタオにももっと多くの使い方があるのです。

物語のなかでは、布の漂白屋は軟膏にそれ以上のものは求めず満足していました。軟膏は彼らの競争相手に対して強みを与えてくれます。それが漂白屋が軟膏に対して求めていたことです。哲学者と学者に対しても同様のことが言えます。彼らはタオを知的探求物として使用することにより満足を得ます。ですから、彼らはそこで止まり、それ以上を見ることはないのです。

そのような人々はタオについての議論や読書に焦点を合わせます。自分自身を専門家であるとみなす人々もいます。彼らにとってタオは精神的刺激、東洋の神秘、時々の知識という喜びをもたらす趣味なのです。正式な指針を欠いたまま、彼らは氷山の一角に触れたのみにかかわず、それを本当に「わかっている」と思っているのです。

実際にタオの本質は知性の世界をゆうに超えています。タオは人生のあり方であり、存在のあり方なのです。私たちがタオを徹底的に深めると、変化の領域を見つけます。そこでは人生のすべての局面においてタオを適用できるのです。この実用化は心の最も奥深くにおいて、除々に着実で深遠な変化を導きます。

物語では、ウー王の長年のライバルを打ち負かすために率いる軍隊は、この変化の力を示しています。これは私たちが他者を威圧するためにタオを使うことができるということではありません。そのかわりに、荘子は老子が道徳経で何度も使ったのと同じ隠喩を使っています。それは王への助言は実際には自分自身への指示であるということです。これは古代中国の王が彼らの目的のために絶対的な力を行使したように、あなたのトゥルー・セルフがあなたの運命に絶対的な力を行使するということで意味をなします。

この概念は言語の壁により西洋には過去に入ってこなかったものです。多分これはタオの教えが大々的に翻訳されていて、その深い層にまで気づいていない人々によって紹介されたことによるものでしょう。

ユェ王は今まであなたが解決したことのない人生においての長期に渡る問題を示しています。そのような問題は、大きいものから小さいもの、害のない先送りのものからひどい薬物乱用まであります。それらは過去にどんなに頑張っても克服できなかった障害です。

軍隊に軟膏を供給することは、人生にタオを適用することを示しています。軟膏はすべての兵士に使用されなければなりません。同様にタオは毎日、人生のすべての局面において適用されなくてはなりません。この適用は意志と自制をともない、始終一貫し持続するものでなくてはいけません。

ウー王の圧倒的勝利はタオの奇跡的作用を示しています。以前には不可能と思っていた問題が、タオを適用すると突如として途中で挫折するのです。今まで解決したことのなかった事柄が突然簡単に感じられるようになるのです。あなたはあなたの挑戦に勝利します。なぜなら、タオがあなたをより効果的かつパワフルな人へと変化させたからです。挑戦自体が変わったのではなく、あなたが変わったのです。

公卿になることは、人生におけるあなたのゴールを達成するということを示しています。頑固な問題に勝利するためにタオの力を行使し、あなたはあなたの骨折りの成果を輝かしく楽しむことができるのです。

旅人は高級な人生に落ち着きました。布の漂白屋は仕事に戻り、毎日を細々と暮らすために川へ入ります。彼はユェの国に劇的な変化が起こったことに気づかないかもしれません。そして、彼はまだ軟膏を彼の特別な使用目的以外の用途に活用することを思い描くことができないのです。

まったく同様に、タオ哲学者であることを興味本位にするものと、厳格にタオを人生に適用するものとには、大きな隔たりがあります。現代の「布の漂白屋」の典型は、自分のタオの理解を向上させる必要は全くないと感じています。彼らは彼らの浅薄な知識のなかで安心しています。彼らの人生は停滞し続け、よい方向へとは進みません。けれども、真なるタオの修道者は成長し続け、学び、ワクワクする冒険のように人生を生きます。

ここから私たちが学ぶことのできる重要なレッスンは、偉大なる結果を達成するためには、私たちは違う見方で考え行動しなくてはいけないということです。どちらの要因もまったくもって本質的要素です。旅人は新しい観点から軟膏を取り扱い、彼の洞察によって行動しました。彼は100金貨を投資し、ウー王に謁見を求め、その後ウーの軍隊は数週間の準備をし、多大な努力をし、計画を立てました。兵士達は戦場で、戦略、展開、戦いの優れた手腕によって戦いました。これらすべてがユェの国をウーの県に変化させ、旅人を平民から貴族階級にするために必要だったのです。

荘子のメッセージは明らかです。私たちは心のなかで田を何度も何度もかき混ぜないと、田を耕すことに成功しないのです。仕事は必須要素です。任意のものではありません。これは通常西洋においての誤認に基づきタオはリラックスし何もしないことだと認識している人々にとっては驚きかもしれません。真実はもっと複雑で、はるかに面白いのです。

この物語から私たちが学ぶことのできるもう一つは、タオはいかなるときも何があろうとも作用しているということです。軟膏は漂白屋に対して効果があったように、兵士達に対しても効果があるのです。タオも同様です。タオは予測できる結果を生み出す一貫した自然の法則を具現し、いかなる人にも同様に機能します。

あなたが誰であるかはタオには関係ありません。あなたが軟膏を最大限に活用しようとする限り、つまり、あなたの日々の存在にタオを適用する限り、あなたも豊かな報酬を受けることができるのです。

最もワクワクする気づきは、究極的にはすべてあなた次第ということです。選ぶのはあなたです。布を漂白するのか貴族になるのか。あなたはあなたの人生の統治者であり、あなたに決定権があるのです。あなたはタオをかじり、楽しみ、そのレベルで満足することができます。もしくは、問題を解決し、障害を克服し、あなたのゴールに達成するためにタオの変化の力を行使することもできます。

さて、あなたはタオをどのように使いますか?